月刊 CHOPIN ショパン  2006年12月号

田崎悦子ピアノ大全集 第1夜

人生が、五感を震わせる音楽に

田崎さんが、20代での渡米以来30年間のニューヨーク生活の中で、カザルスやゼルキン、ジョン・ケージ等々、今や音楽史を彩る巨匠達と音楽空間を共有した事実は、衆目の知るところだ。今回、その半生の中で、「恋人のような存在」だと語る作品をあつめた6回連続リサイタル「田崎悦子ピアノ大全集」は、バロックから21世紀までも網羅する、壮大な音楽史になった。

その第1回目の「バロックから古典へ」は、スカルラッティのソナタ抜粋に、モーツァルトの幻想曲K475とソナタK457、そしてバッハのパルティータ第4番。形式を尊重しつつも重なるモダンな響きは、まさに命そのものが奏でるよう。どの音楽からも、巨匠達の囁きに耳を傾け、また、グレン・グールドも弾いたという1925年製のヴィンテージ・スタインウェイと対話する姿が見えてくる。

田崎さんの根底に流れるのは、曲への<真摯さ>であり、同時に<いとおしさ>だ。音楽とは何か。演奏家とはどうあるべきか―。これらの演奏から、その答えが見えた気がする。

(今枝千秋) 

× 閉じる